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raytrekアンバサダー賞受賞 角野正樹 × raytrekアンバサダー対談

raytrekアンバサダー賞受賞

角野正樹 × raytrekアンバサダー対談

  • #写真

クリエイター向けPCブランドraytrek(レイトレック)は、東京カメラ部のサポートのもと、raytrekアンバサダーの井上浩輝さんと別所隆弘さんの監修モデルのPCを追加発売しました。それを記念して、「PCの壁紙にしたいレタッチ写真」をテーマとしたフォトコンテストを2021年8月5日〜9月30日に開催し、「raytrekアンバサダー賞」「井上浩輝賞」「別所隆弘賞」を選出しました。最優秀賞にあたる「raytrekアンバサダー賞」を受賞されたのは角野正樹さん。その副賞として、井上さんと別所さんを交えた対談がおこなわれ、受賞作品「空は広く、大地はつづく」へのフィードバックが直接ご本人に伝えられました。

この度は「raytrekアンバサダー賞」の受賞おめでとうございます!

角野「ありがとうございます。このような素敵な賞をいただき、また今回のように取材もしていただく機会をいただき大変光栄です」

最優秀賞にあたる賞でありながら、別所さんと井上さんのおふたりの意見が一致しての選出だったそうですね。

別所「ふたりの意見が一致したどころじゃないです。審査に関わった全ての人の意見が一致しましたね。審査の場で、あのキリンの写真すごいですよね、とみなさんお話していて、僕も井上さんもそれに完全に同意でした」

井上「今回は壁紙のコンテストでしたから、僕自身がどんな壁紙を使っているかをまず考えて審査に臨みましたね。僕は使用頻度が高いソフトウェアのアイコンは左下か右下に置いているのですが、まさに大賞作品はその置き場があるんです。そして、アイコンが壁紙に沈まない絵柄でもありながら、暗いところでモニターが立ち上がっても、目を殺しにこない(笑)。眩しいと思っても、腹が立たないような壁紙がいいですよね。角野さんの作品は明るくても優しさがあって嫌じゃなかったわけです」

別所「見れば見るほど、壁紙を意識されたうえで応募されているなと感じました。他にも力作は多かったんですが、壁紙に向くかどうかという観点から外れるものも多くありまして。今回は約7,000点という凄まじい応募数だったらしいのですが、その中のトップですからね。raytrekの大きなフォトコンテストということもあり、とにかく剛速球の作品が多かったと思います。目を引いた作品に共通しているのは、上と下の領域に分割されているなど、デスクトップとして使いやすさでしょうね。僕は画面の左右にはよく使うソフトウェア、右下には情報領域というように、4分割して使っていると思います。今回の受賞作品も幾何学模様的に領域がわけられる性質を持っていると思いますし、配置したアイコンや開いたウィンドウの隙間から、うるさい色や絵が出てこないという点もいいなと思いました」

井上「何より、絵柄の“幸せさ”でしょうね。希望があるような感覚はとても大切。ある現代アートのコレクターから教えていただいたのですが、高値が付く作品には必ず『希望』がそこにあるって」

別所「たしかに、世の中の凄惨な事実を突きつけるような、ノンフィクションの壁紙を使っていたら、PCを立ち上げた途端に消したくなるかもしれないですよね」

井上「キリンが明日の方向に向かってゆっくりと歩いている。動画のように歩き出しそうな写真ですよね」

別所「PCは仕事だったり、クリエイティブだったり、何かを生み出すために使うと思いますが、そんなときに少しでも心をアップテンポにしてくれるのは大切ですよね。毎日見ますから」

井上「Windowsを載せているPC、少なくとも僕が知っている中では最もクリエイター寄りのPCがraytrekですから、そこが主催するコンテストであれば、『希望』が壁紙に常にあるのはいいことだと思います」

角野「動き出しそう、というのはとてもうれしい感想です。僕自身としては、真ん中のキリンの尻尾がなびいているところが気に入っています」

井上「同じ写真がSNSのタイムラインにあると、おそらくですがスッと流れていってしまうと思うんですね。でも、ディスプレイにドンと表示されると、急に強い吸引力を発揮してくる。そんな作品ではないでしょうか。SNSでいいねを付けたくなる作品もひとつの方向性ですが、じっと写真と向き合うように見たくなり、次は自分の番だな、というような感覚にしてくれる作品も素敵な方向性。この作品はまさにそんな感情にさせてくれるものだと思います」

角野「ひと月前くらいに『ちばZOOフェスタ』という、千葉市動物公園で年に一度開催される文化祭のようなイベントに参加させていただいた際に、わたしは写真集やプリントを販売していたのですが、このキリンの写真も出品していたんです。そうしたら、ふらっと立ち寄ってくださった方が、いい写真だなと言いながら買ってくださって、すごくうれしかったです」

別所「まさに、壁に飾りたくなるような写真だと思います。入り口のそばに飾っておくと、帰宅したときにサバンナの大地を爽やかに感じそうじゃないですか」

角野「実を言うと、家に飾っています(笑)」

別所「やはり!自分で撮った写真がとてもお好きなんだろうな、というのがすごく伝わってくるんですよ。コンテストを見ていると、どや!という作品と、これ好きなんで見てください、という2つがあるんですよね。どや!というのもコンテストの趣旨によってもちろん選びますが、今回に限っては、誰が見てもリラックスできるような1枚がふさわしいとい感じました」

レタッチについての感想をお願いします。

井上「角野さんは、はじめは鉄道写真をお撮りになっていて、そこから動物写真の世界へとシフトしていったということですが、おそらく鉄道と比べると、動物やネイチャーはレタッチの適正の振れ幅というものが狭いと思うんですね。だからこそ、RAWから仕上げる必要性があって、カメラメーカーの味付けがあるJPEGからの編集をしてしまうと、味付けの上にオーバーライドすることになってしまうんです。角野さん、受賞作品は壁紙用ということも考えて、RAWからナチュラルな空の色は調整されていますよね?」

角野「はい、その通りです。鉄道写真では少し彩度を高く仕上げることもありましたが、動物を撮るようになって自然な仕上げに変わりました。この作品のRAWデータはかなり暗い状態だったのですが、持ち上げつつ自然な色にしています」

別所「JPEGからではなく、PCを使ってRAW現像をすることがいかに大切か、ということですよね。暗部を持ち上げたとき、メインの被写体の周囲がもやっとすることありますが、そういうこともなく、とてもスッキリとした空になっていますよね」

井上「本当に、この空の色は好きですね。彩度があまりにも高いのは好みではなく、このくらいがいいんですよ。僕の好きなBBC制作のドキュメンタリー番組のような空ですね」

別所「わかる、わかる!この写真がすごいのは、色が主張していないから視覚的に目に飛び込んでこないはずなのに、驚くほど印象が強いことですね」

井上「過剰なことは好きではないものの、センサーが捉えた色そのままの写真にするのもおもしろくないと思っていて、例えば動物がいて背景に自然風景があるなら、写真としてアウトプットするときは、動物を意識的に見ているわけですから、相対的に動物のコントラスト、彩度、明瞭度は強めてあげていいんです。背景は相対的に下げてあげる」

別所「そういう意味においても適切なレタッチがなされていて、誰が見ても印象に残ると思います」

角野「キリンが際立つようには意識しています。キリンの背景は雲で白くなっていて、浮き立つように仕上げやすくて助かりました。これは移動中にたまたまキリンがいい感じに3頭並んで歩いていて、ガイドさんに運転してもらっている車から瞬間的に撮っています。だから、露出に関してはかなり適当だったんです」

井上「そういうものなんですよね。こんな撮影に苦労しました、というような付加価値のつく写真というものがあるじゃないですか。登山とかね。僕は絶対に登山はできないから、山岳写真には付加価値がつくんです(笑)。美しい女性のポートレートも撮るのが苦手なんで、そこも付加価値がつきます。でも、ネイチャーの場合は、自分がその分野で活動しているわけですから、珍しい場所というだけでは付加価値はあげられない。そんな中、たまたま撮れたんです、という潔い言葉を聞くとうれしくなりますね」

別所「時間はずっと流れているわけですから、いくら狙いすましたとしても、最終的にはどの写真もたまたま撮れた1枚ともいえますからね。これはどちらで撮影しているんでしたっけ」

角野「ケニアのマサイマラですね。日本から20時間くらいですね」

井上「たしかにサバンナまでいくのは時間もお金も掛かりますが、よい一瞬に出会うのは、本当にふとしか瞬間だったりするからおもしろいですよね」

角野さんは壁紙のコンテストということで、モニターと同じ16:9の比率にし、実際に壁紙としての見え方を確認してからご応募されたそうです。

別所「収まりがよかったので、見た瞬間にそれは感じました。僕らも壁紙のコンテストだといわれた瞬間に、壁紙の比率で見ようとします。そのくらい比率は意識しますね。Instagramに投稿するときは縦長にしますし、いま写真の主な出力先はプリントではなくデバイスですから、デバイスごとにどう見えるかを考えなければならない時代なんです。まさに今回のコンテストはそこが求められていたと思います。壁紙のコンテストである以上、壁紙の比率にマッチする写真に惹かれますよね」

井上「僕も自分の16:9のモニターに映して見ましたからね。あるべき姿としてね」

角野「16:9にしたときにもっともしっくりとくる写真を選びましたし、トリミングも慎重におこないましたね」

井上「角野さんは彩度とコントラストも相当に考えていると思います。彩度とコントラストを自分のディスプレイで最適なものにすると、環境によってはきつく見えすぎることがあるんですよ」

別所「少し古いディスプレイは、彩度が高く出るものが多くて、自分が濃く出すとさらに濃さがのってきて、赤が飽和したり人工的な色合いに見えてしまいます。角野さんの作品は抑えた仕上がりになっていて、きっと古いディスプレイで見てもキレイだと思いますね」

井上「その落とし所が絶妙でしたよね。僕もそこは個人的に気をつけているところです。よく、Adobe RGBで表示できないと困りませんか?というような質問を受けるんですが、そういうことよりも、みんなの使っているディスプレイでキレイに表示できるかどうかが重要なんです。最大公約数を見ていくと、正しい色のディスプレイで彩度とコントラストが少し落ちているあたりが、もっとも安全な場所だと思います」

角野「ついついレタッチしているとやりすぎてしまうじゃないですか。このキリンの肌は実は困ったんです。写っているキリンはマサイキリンという種で、日本の動物園にいるアミメキリンよりも濃い茶色をしているんです。薄茶にするか、リアルにいくか。最終的にはマサイキリンの色をちゃんと活かしたんですが、きつく見えないようにこだわりました。キャリブレーションをしたモニター、日本で多くの方が使っているiPhoneでの見え方も相当に意識して仕上げましたね」

別所「デバイスの比率にこだわるということは、見る側の人のことを想像しているということ。そのような戦略的な視点は、いまの写真の世界では必要な能力だと思います。今回の作品はあらゆる点で完璧でした。」

角野「本当にありがとうございます。アフリカまでいった甲斐があります」

井上「これからも角野さんの作品を拝見するのを楽しみにしています。今回はおめでとうございました!」

角野 正樹さんPROFILE

サーバルやアムールトラ、チーター、キツネなどの動物写真を日本各地の動物園で撮りまわり、動物園の許可を得て写真集を制作しています。写真集はBOOTHなどのネット通販だけでなく、千葉市動物公園、とべ動物園、豊橋動植物公園のんほいパーク、浜松市動物園、福山市立動物園の売店で好評発売中!
コロナ禍直前にアフリカのマサイマラ国立保護区へ旅立ち、本物の野生動物の撮影に取り組みました。またアフリカへ行きたいです…。

角野 正樹さん