優秀賞 nabecam インタビュー

優秀賞

nabecamさん インタビュー

  • #写真

写真を撮りはじめたきっかけを教えてください。

僕はデザイン関係の仕事をしているのですが、美大受験に必要なデッサンの構図作りがとても苦手でした。しかし、「写真を撮ると構図の勉強になる」と先生にアドバイスをいただいたことが、写真を始めるきっかけでした。
最初はデッサンのための鍛錬でしたが、 美大に入学後、人を撮った写真が周りから好評だったため、本格的にポートレートに取り組んでいくようになりました。

レタッチをはじめた時期と理由を教えてください。

大学では製品デザインを専攻していました。 授業では製品を実際に製作して発表するのですが、そのときに写真を撮りポートフォリオやポスターにする必要がありました。自分の意図をより良く伝えるためにレタッチは必要だったので、色の調整はもちろん、合成をすることもありました。撮影時点でイメージ通りになることはなかったので、それを補う形でレタッチしていました。

ポートレートにおけるレタッチは?

はじめの頃はポートレートにおけるレタッチのイロハはわかっていなかったので、どの程度いじっていいのかわからず基本補正程度でした。しかし、自分の色で表現することで作品性を高め、SNSで他者と差別化を図る上でレタッチは必要だと感じ、次第に取り組むようになっていきました。 表現はもちろんですが、ポジショニングのためのレタッチという点も気にしていましたね。カラーマーケティングの観点から、例えば、「いまは青白くてハイキーが人気だから逆張りをしてアンダーでコントラストと彩度高めで仕上げていこう」など、写真がSNSの中で際立つように調整するようになりました。

レタッチにかける時間は?

大体5~10分くらいで1枚を完成させられますが、ひと晩置いて客観的に作品を見る時間を取るようにしています。再調整の必要を感じたら、そこからまた修正をして仕上げます。レタッチに費やす時間はプリセットを作成しているため短いです。プリセットを当てたあとはモデルの肌の調整であったり、 全体の光の整理をするくらい。プリセットのおかげで時間はだいぶ短縮できています。

プリセットは何種類あるのでしょうか?

100種類以上作成してきていますが、今使用しているのは5種類ほどに絞られています。プリセットは肌の色味を基準に色のテーマ別に設定を組んでいます。どのプリセットを使っても、雰囲気がでるよう作っていますが、使う時は写真のテーマや方向性に合うプリセットを選んでいます。

現像ソフトは何を使用されていますか?

現像ソフトはAdobe Photoshop Lightroom Classicですね。ときどき、Adobe Photoshopも併用してイメージを補完しています。

使用撮影機材は?

SONY α7Ⅲ / α7IV
FE16-35mm F2.8GM
FE 20mm F1.8G Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
アダプターを使いAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDを使っています。

「れたっち!レタッチ!retouch!レイトレックフォトコンテスト」はどこで知りましたか?

知り合いの写真がフォトコンのポスターに使われていたので知り、自分も参加してみたいなと。今回は東京カメラ部さんのコラボということ、レタッチに関するフォトコンだったということで、腕試しとして応募しました。応募するときは自信満々でしたが、受賞の連絡をいただくと、「本当に?」という感じで驚きました。

優秀賞受賞作品 作品タイトル FUNFLOWER

受賞作について解説をお願いします。

3年前くらいに佐渡島で撮った写真です。逆光を浴びている雰囲気、ひまわりの透明感を気にして撮っていたのですが、とにかく日差しがすごかったですね。夏の17時ごろの撮影だったのですが、驚異的な西日で...現像のことを考え空が白飛びしないように撮ったため被写体がかなり暗くなりました。このように被写体が暗くなってしまった時は、まずニュートラルな状態に戻すということを意識してレタッチしています。また夕日の影響でホワイトバランスも崩れており、カメラ側が被せてくる青を補正して被写体を適切な色温度に戻すという下処理も必要でした。そこから色付けやコントラストの調整など、情報の主従をつけていきました。色は常夏感をイメージして作っていましたね。モデルさんの衣装がオリエンタルな印象だったので、この印象をより全体に波及させていきたかったのです。ひまわりをオレンジみにしたり、葉っぱも黄色みにして全体を暖色系にしました。空の青はあくまでサブで、黄色を引き立たせる色にしようと考え彩度は抑え気味にしましたね。

色によって情報の主従を付けるのですね。

平面で見るものに対して、主従関係を付けるというのは重要だなと思っています。何が主題なのか、何がテーマになっているかにフォーカスポイントを持っていくために、全勢力を注いでいます。主題は目立つような色にして、それ以外はサポートするのか、一歩引くのか。そんな意識でひとつの画面を整理していくことを心掛けています。

作品タイトル HIGAN

受賞作以外の作品も数枚ご紹介させていただきたいです。

個人的に彼岸花はネガティブなイメージがあったのですが、 撮るのならば何かテーマを決めようと。 彼岸花の彼岸って「悲願」 とも書けるじゃないですか。 そういう文字遊びができると思い、 彼岸花が咲いている空間を天界に見立てて、 「想い人に会うことができた」というテーマで撮った1 枚です。 指をかざしてあの人を想っていると、 クロアゲハに乗ってあなたが戻ってきたという幻想的なテーマ。 このようにロケーションによってテーマを持って演出することは多いですね。

※花が咲いていない場所であれば、立ち入り可能なロケーションで撮影しています。管理役場にも確認済み。
※撮影時は周りの花に細心の注意を払いながら撮影しています。

作品タイトル MatureFlowers

続いては紫陽花の写真です。

写真で何を伝えるか?は大切にしています。写真はパッと撮っても完成しますが、そこに意図や思想を込めない限り差別化はできないだろうと思っています。この写真では、よく目にするような、キラキラとした紫陽花の写真とは違うものにしたいなと考えていました。モデルさんがとてもしっとりしている雰囲気なので、紫陽花の花言葉である「無情」を表現したいと考えました。レタッチで気をつけたことは、しっとり感を演出するためにフェードをかけた表現にしています。また、モデルさんの肌が白く色を拾いやすいため、紫陽花の青色を拾って血色が悪く見えるのを補正するために、ピンキッシュな色を入れることで血色を保っているように見せています。コンセプトを決めることは羅針盤のようなもので目標に向けて進めば、自ずと色々なものが集約していく感覚があります。

※口に咥えている花は落ちていた花を使用しています。

作品タイトル Rainy days never stay

最後は和服のポートレートです。

金沢の東茶屋街で撮りました。 いつもは人の往来が多く、このようには撮れないのですが、緊急事態宣言が明けてすぐだったため撮ることができた1枚です。雨は降っているけどいつか止む、というテーマ。観光地がコロナで打撃を受けていることと、雨が降り続けているという状況とを絡めて表現しています。奥行き感を見せるために提灯の灯りが雨で滲んで光っているという点にこだわりレタッチしました。あとは輝度差ですね。バックストロボを炊いているので、人に目が行くように、他は明度を落としています。

今後のレタッチに関する目標は?

自分の色をもっと深めていきたいです。今の自分の色はヨーロッパ系のファンタジックな色味を自分なりに解釈し、日本でも見てもらいやすいよう落とし込んでいるのですが、二番煎じの部分もあるので、自分が幼少期に好きだった絵画の色などを思い出して、色を研究していきたいです。

インタビューに答えるnabecamさん

PCをはじめとする機材にこだわって作品づくりをする楽しさについてコメントをお願いします。

周辺機器というのは何かを表現するうえでストレスになったらダメだと思っています。実はモニターを半年前に買い替えたのですが、その背景としてはPC画面とスマホ画面の色の差が大きく、色の調整に時間がかかり悩むことが多かったためです。正直大きい買い物になりましたが、良いものを買うと余計なことを考える時間がなくなり、 いろいろなことがスムーズに進むようになりました。変にフリーズすると時間が無駄になってしまうので、高いスペックのものを使うのは大切だと思います。投資することで必ず回収もできます。決して無駄にならないので、作品づくりに取り組みたい方は、ぜひ導入を検討してみてください。

どうもありがとうございました。改めまして、受賞おめでとうございます。

※Adobe、PhotoshopならびにLightroomはAdobe Systems Incorporated(アドビシステムズ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。

nabecamさんPROFILE

普段は色にまつわるデザインの仕事に携わり、週末フォトグラファーとして活動中。
写真のコンセプトとしては"A beautiful moment for a lifetime/ 美しい瞬間を一生へ”を基軸に儚くも美しい瞬間を力強く表現。
幼い頃から色遊びが楽しく、絵の具や色鉛筆といったアナログからPCやスマホといったデジタルへと表現ツールが変わり、写真を通して色彩美を模索・探求しています。

nabecamさん