優秀賞 SILK インタビュー

優秀賞

SILKさん インタビュー

  • #写真

写真を撮りはじめたきっかけを教えてください。

SILK:わたしはドローンを使ったポートレートを撮っていますが、まずドローンでの撮影のきっかけは、2016年頃に1万円ほどで購入できるトイドローンで遊ぶようになったことです。空撮機の導入は2017年。トイドローンと比較すると、手離しでホバリングもしますし、写真も撮れますし、とても感動しました。そのときに、もしかしてドローンで写真撮影も出来るんじゃないかと思い立ち、機体を買い替えていくことにしました。もちろん空撮機でもキレイには撮れるのですが、普通のカメラと比べて満足な画質にはなりません。結局、業務用の大きな機体を買って、そこにミラーレス一眼をぶら下げて撮るというスタイルに行き着きました。micahとふたりで撮りはじめたのはコロナの第一波がはじまった頃です。モデルに近づいていいのか、そもそも撮りに行っていいのかという雰囲気でしたよね。ドローンを使えばモデルとの距離は取れますし、人がいないところで飛ばすわけですから、これだったらいいんじゃないかと思いました。ある意味、自分たちの逃げ道を絶ち、業務用ドローン専門のポートレートをはじめました。

ドローンポートレートでもっとも意識することは?

SILK:やはり場所探しです。ドローンで写真が撮れる場所か、そして許可が取れる場所かの2つのことが大切になります。管理者の特定がもっとも大変ですね。山で飛ばしたいけど、山の管理者は誰なんだろうと。正直、聞きまくるしかないですね。場合によっては、撮影したい場所で聞き込みをすることもあります。断られることも多いです。やはりドローンと聞いただけでダメと判断する方もいらっしゃいますし、逆に初めての問い合わせでよくわからないからダメという方もいます。国交相の許可が得られても、地面側・土地側の許可がないと、ドローンの飛行高度では飛ばすことができないのです。場所探しそのものは、自分たちで回ってみるときもあるのですが、アタリつけるときはGoogleマップですね。航空写真はある意味、鳥の目線で、ある程度アタリつけられますから。僕らのGoogleマップはスターだらけですね。

所持ドローン、使用カメラを教えてください。

SILK:現在メインで使っているのはSONYのAirpeak。2020年秋にやっと発売された機種です。SONY製のためα7などをそのまま搭載することができます。いままで使っていた大型機の半分の大きさで済みますし、バッテリーも6個必要だったものが2個になり、とても楽になりましたね。αと操作面でも連動しており、一部レンズを除き、地上から絞りの変更やフォーカシングもできます。インターフェースもほとんどαと同じで使いやすいです。他のドローンについては皆様がご存知の機体はだいたい所有しているか使ったことがあります。
DJIで言えばMavicminiからMavic3のcineモデルやInspire2、それに業務用のMatriceシリーズなど一通りです。他にもBETAFPVなどのFPV機を使用することもあります。いずれにしても状況や撮りたいものによって使い分けがあるのと、定期点検等に備え同型の予備機も持ってないといけないので、かなりの機数を所有しています。

レタッチの環境を教えてください。

SILK:デスクトップPCでやっています。なぜかというと、同じスペックでもノートに比べて割安ですし、後から性能を増強していけるからです。写真がメインなので、グラフィックボードの性能はGTX1650TIと普通ですが、メモリを盛っています。モニターは縦横2面でやっています。Instagramにアップする写真は縦構図なので、モニターも縦のものを使用しています。こだわりとしては、ストレージが多いところでしょうか。データのバックアップが多く、クラウドも使っているので、万一のことがあっても大丈夫なようになっています。特に過去の写真を使うような写真展が多いので、ストレージは大切にしています。

レタッチ歴は?

SILK:ドローン導入以前、カメラを手にしてから半年ほどでRAWデータというものを知り、現像処理をして仕上げるようになりました。 小型のドローンで撮影をした場合、レタッチは必要不可欠なのですが、やればやるほど画質が荒れるので戦いですね。小型ドローンはいまも状況に応じて使う必要があるため、戦いは続いています。Airpeakを導入してからはそんな苦労からは解放されましたが、上空から撮影すると人物と背景の輝度差がすごいのです。ですから、白飛びをなくすために驚くほど暗く撮っていますね。僕が見ている操縦画面はそんなに大きくないですし、人物は風景の中にポツンというくらいの大きさで捉えることも多いので、できるだけさまざまな露出でたくさんの枚数を撮るという感じです。決め打ちするよりは、後から使えるものを選びます。

1枚あたりのレタッチに費やす時間は?

SILK:元のデータにもよるのですが、良く撮れたものは10分で終わります。写真展に出すようなものとなると、かなり時間をかけて手を加えることがあります。また、同じ写真でも、下手をすると1枚で1週間など悲惨な時間の掛かり方をしますね。展示用とInstagram用とではレタッチ方法が全然違います。

作品の選定はどのようにしていますか ?

SILK:最初の段階でセレクトしているのは実はmicahなんです。
撮った写真をクラウドで送り、場合によっては何千枚とある中から10~20枚程度にmicahが絞り込んでいます。今までずっとやってきてこの形がお互いにしっくり来ています。やっぱり自分の顔は自分が一番良くわかると思うので、本人に任せちゃうのが一番良いなと。
昔は僕がセレクトしてmicahからNGをもらい「この表情はNGなの?」と思うことがありましたがそういうのもなくなりました。

ドローンで作品を作ると聞いたときはどんな感想でしたか?

micah:最初はすごく小さいドローンで、どこに飛んでいるのか、どこに焦点を当てて、どこに感情を向けていいのかわからず、わたし何をしているんだろうと思ったのが正直な感想です。後からSILKに「あれって正解だった?」と聞いたのを覚えています。

SILK:モデルにとってカメラマンのシャッター音がリズムを作ると思うのです。micahも元商業モデルなので、そのリズムは持っていると思うんですよね。ドローンだと何も聞こえないので、多分そこがいちばん困ったことかと思います。

micah:ポーズの替えどきや、動いていいのかもわからない状況ですし、最初はいまのように無線を使っていなかったため、コミュニケーションもなかなか取れませんでした。アイコンタクトやボディランゲージを使っていましたね。

レタッチ時で調整する項目は?

SILK:基本的に全て調整しています。ハイライトやシャドウを合わせ、ホワイトバランスを合わせ、そこからトーンカーブ、カラーを調整しますし、部分補正もします。ドローンは上から撮るので、陰影がないとペチャッとした印象になってしまいがちです。そのため光と影は意識して撮りますし、レタッチでも立体感が出るように心掛けています。また色がおかしいなと感じたらマスクをかけ、そこからAdobe Photoshopでも調整します。色は記憶色を大切にしており、この時に感じた色はこうだったよね、という色にしているため、実際の色からはかなり変わっていると思いますね。

「れたっち!レタッチ!retouch!レイトレックフォトコンテスト」はどこで知りましたか?

SILK:Instagramをはじめたときからサードウェーブさんは存じ上げています。
今回は告知を拝見して、僕たちはレタッチはやりますし、ぜひ応募したいと思いました。受賞の連絡は東京カメラ部さんから来たのですが、「誤配信かな?」と思ったくらいです(笑)すごく嬉しかったです。

優秀賞受賞作品 作品タイトル 虹色の軌跡

受賞作について解説をお願いします。

SILK:僕たちは静岡を主体に活動しています。これは遠州灘ですね。撮影時は大潮の引き潮でした。これは潮が引いてできた模様ですね。夏の太陽で砂浜が照らされて不思議な模様になっていたので、おもしろいからここで撮ろうと。大型機を飛ばす前に小さいものを飛ばすのですが、実はこれはテスト撮影で撮った写真なのです。なんでこれを作品にしたかというと、足跡がポイントです。後ろについているだけではなくて前にも足跡があって、何かの足跡を辿っていくようでもあるけれど、光に向かっていくイメージだねって。もう一度飛ばすと足跡が二重についちゃうので、このまま撮ることにしました。

レタッチで気に掛けたことは?

SILK:ドローンはカメラを縦位置にできないので、横位置からトリミングするしかありません。小型機は2000万画素しかないためトリミングをすると1000万画素になります。ダイナミックレンジも狭いので、どうやってレタッチしていくかは考えましたね。大事なのはmicahの影と、傘のレインボーです。傘をしっかり出しつつ、レインボーの透けている感じを出さなきゃいけないなと。あと衣装が風でなびいているので、なんとかその質感を残したいと格闘しました。

撮影時に苦労したことは?

micah:傘の影については、SILKの位置からだと反射の見え方が違うらしく、わたしはキレイだと思っているのに、SILKからすると違うように見えるから「どうにかして!」と言われて。わたしからするとキレイじゃないなと思っている位置で「そのまま!」と言われたりして、とてもギャップがある撮影でしたね。

作品タイトル 耕してきた大地へ還る

受賞作以外の作品も数枚ご紹介させていただきたいです。

SILK:作例1は「耕してきた大地へ還る」という作品名です。ここはキウイ農園で、オーナーさんがトラクターの収集家で、色々なトラクターが置かれていて子供たちが遊べるようになっているのです。これは珍しいポルシェ製のトラクター。それに伸びてきた植物が絡まり、大地に飲まれそうになっています。トラクターという大地を耕すものが、耕してきた大地に飲まれそうになっている。そんなイメージで撮りました。SONYのAirpeakにα7RⅣ+50mmレンズと、ドローンにしては長めのレンズを使っています。
機体が大きく、24mmなどのドローン的は標準のレンズを使うとよらざるを得ずとても危険なので、人物を大きく写す場合はなるべく焦点距離が長めのレンズを使っています。

レタッチで意識したことは?

SILK:実はレタッチ時間は10分くらいです。トラクターとmicahの部分に影が落ちているのですが、一発で光と主題に目がいくように調整しています。また、トラクターの錆色にこだわりました。

モデルとして苦労した点は?

micah:壊れているトラクターが重要だったので、ポーズや表情は主題に寄り添うようにしています。「還る」という話は後からしたのですが、私も同じようなイメージで撮っていましたね。眠りにつくようなイメージで写りました。通常、撮影する位置まで行き、雰囲気やそのとき感じたものをSILKにアウトプットして、それを汲み取ってもらい、同時にSILKの意向ももらい表現していますね。

作品タイトル 世界の境界線

続いて「世界の境界線」という作品です。

SILK:これは僕らの中で、勝手に東京カメラ部10選作品だと言っているものです(笑)。受賞作品とほとんど同じ場所で撮りました。小型機でのテスト撮影中、空がこのような状況になっていたので撮りました。これは朝焼けではなく夕焼けなのですが、左側だけが焼けているんです。太陽は右側にあり、突然出てきた雨雲に反射しています。でも右側には青空は残っている。青空と夕陽のドラマチックな境界線にmicahが立っていて、まさにふたつの世界の真ん中に立っているようだねって。よく合成みたいと言われます。パノラマ合成しているので、たしかに合成なのですが。24mm相当の画角で固定なので、パノラマ合成をしないとここまで広く撮れないのです。レタッチでは、合成の境目がなるべく自然になるようにしています。

作品タイトル 月夜にひこうき雲を描いてみた

最後に「月夜にひこうき雲を描いてみた」という作品です。

SILK:夜間空撮をしています。ドローンで満月の光だけで撮るということに挑んだ作品ですね。Airpeakで機体性能をフルに使いました。夜はドローンのセンサー類が効かないんです。ドローンはビジョンセンサーによって地面を見ながら安定させるんですが、夜は地面が真っ暗なのでセンサーがオフになり、GPSだけで飛ぶことになります。そうするとドローンが揺れだすんです。でもAirpeakは比較的安定しているので、このような写真も撮ることができます。0.8秒ほどの露光時間です。またα用のレンズは明るいので、きれいな夜間空撮が撮れます。月が良い感じに上がり、micahのいる岩に灯りが落ちてきています。月の周囲には飛行機雲がふたつありますが、これはドローンを上げてみて初めて気付きました。micahが持っているパンパスグラスという植物を筆に見立て、飛行機雲を描いてみた、そんなイメージです。レタッチはノイズとの戦いでしたね。明るく出したいけど、ノイズがどうしても乗ってくるので、それをどう抑え込むかで苦労しました。

撮影時に苦労したことは?

SILK:風速10mくらいで、通常のドローン飛行許可で飛ばすことのできない状況でした(航空局標準マニュアルでは風速5mまでと定められています)。僕らは強風用の承認も取っているのでもちろんその承認で飛行しています。この承認を取るのにもAirpeakが活躍しています。Airpeakは風にも強くて、ペイロードなしだと風速20mまで大丈夫です。カメラをぶら下げている状態でも風速15mまでオーケーですので、このような強風の中でも撮影できるという強みがあります。micahが立っている場所は波が引くと行ける場所で、安全対策したうえで撮影しています。

インタビューに答えるSILKさん

micah:足元は不安定な場所ですが、安全対策はバッチリで撮影しています。風が強くて立っているのがやっとの状態でしたが、人よりも機体の方が安定していて、0.8秒のシャッタースピードでは、わたしの方がブレているというのがよくありました。大変な撮影でしたね。

インタビューに答えるmicahさん

レタッチという工程は作品づくりには重要でしょうか?

SILK:撮影よりも時間をかけてしまう部分ですね。撮影は一瞬じゃないですか。それを作品にしていくためにパワーのあるPCと、色の出るモニターで、コンマ何秒の瞬間のためにしっかり追い込んでいく。そこに力を注ぐことで写真は完成すると思っています。

写真を作品として発表したい人にとっては現像環境にこだわるべきだと思いますか?

SILK:普通のモニターでは全部の色が出ないですから、本来そこにある色が表示されないのは困りますよね。プリントをしたり、Instagramに投稿する際にモニターで見た色と変わってしまい、何回もやり直しが発生して時間を消費するのはもったいないと思います。また、どんなにCPUを速くしても外付けのストレージとのUSB接続がデータ転送のボトルネックになってしまう場合もあります。これを解消した読み出しが高速なPCの導入を検討しています。「raytrek ZG+ アンバサダー監修 - 東京カメラ部10選モデル」 は、サンダーボルト4を標準搭載されており、外部機器とのデータのやりとりも素早くできるPCだと知り、導入を検討しています。

今後の取り組みについて教えてください。

SILK:僕らを必要としてくれる方の役に立ちたいというのが活動のベースです。例えば写真でも「こういうの撮れない?」というお話を頂くのもありがたいことですが、僕らの作品をそのまま使いたいと思っていただける作品を撮ることも目標です。そしてもうひとつ、これは義務だと思っているのですが、作品づくりと同時に、ドローンの飛行ルールについても行政やスクールと共に発信していきたいと思っています。ドローンであるかを問わず、写真のマナーは大切じゃないですか。例えば、東京カメラ部さんのYouTubeでマナー講座をやったとして、その中でドローンについての解説を担当させてもらうとか。写真を撮るうえではルール発信をしていくのは義務だと思っているので、そういうことにも力を入れて行けたらと思っています。

どうもありがとうございました。改めまして、受賞おめでとうございます!

SILKさんPROFILE

ドローン専門の写真家としてメーカーの作例撮影や各種PR撮影等を行っている。2021年ドローン事業法人化
Instagramでは #天空ポートレート として日本初のドローンポートレート専門のアカウントを2019年に創設
『まだ見たことない世界』『法令遵守』をテーマに活動中
2022年春には天空ポートレート写真のみで構成された個展『UNTITLED』を名古屋・栄で開催
空間と音を組み合わせた時間制・同時入場5名迄の個展『UNTITLED』は全枠満枠と盛況のうちに終了
2022.11にはソニーストア名古屋にてドローンパイロットトークショー登壇

SILKさん
プロフィール:SILK(左)micah (右)